【京都】伏見稲荷神社での不思議体験

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雑記帳
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初めに言っておく。これは私が体験した話だが、夢か幻かもしれない。どこまでが本当だったのか、今の私には判断できないし、今のところ実際に現地に赴いて真偽を確かめる予定もない。
だから本当でも嘘でも許してほしい。

話半分、耳半分で聞いてくれると嬉しい。

伏見稲荷へ赴く

もう何年か前の話だ。


当時、私は高校生で、関西にある祖父母の家を訪ねていた。
祖父母は歓迎してくれて、「せっかく来たのだから」と言って、私を京都に連れて行ってくれた。

その頃の私の愛読書は森見登美彦氏の著作で、その影響で私は京都に漠然とした憧れを持っていた。

中でも伏見稲荷神社には興味があって、京都に行くときにはぜひ行きたいと思っていた。

神社に着いたのは夕暮れ時だった。
予想よりもはるかに大きな対の稲荷像が神社の入口に立っていた。
私は大きな台座に乗った稲荷様を見上げた。
石造りの狐の顔は目が吊り上がっていて少し怖いと思ったのを覚えている。
少しも古びたところのない赤い涎掛けがそれぞれにかけられていて、灰色の体とのコントラストがまぶしく、ぼんやりと靄のかかった記憶の中でも鮮明に思い出せる。

伏見稲荷神社の参拝路は上り坂で、ちょっとした山のようだった。
とはいってもさすがは有名観光地である。
地面はきれいに舗装されているし歩きやすい。


永遠と続くかと思われる赤い鳥居の行列は圧巻だった。

トンネルの鳥居は1本1本様子が違う。
異様に年季が入っていて今にも倒れそうなものもあれば、ピカピカと光沢がある新しそうなものもある。
よく見れば大きさもまちまちだ。


それぞれの鳥居には寄贈した人の名前や日付が書かれていた。
私もいつか小さな鳥居を1つ、納めてみたいと思った。

参道の坂、途中祖父母と別れる。

参道は思っていたよりも傾斜が激しく息が切れた。

赤鳥居の中を登っていく過程は、まるで人間の世界から離れていくような心地がした。
脳内では早々に鳥居のゲシュタルト崩壊が起きた。


祖父母は参道を3分の1くらい登ったあたりですっかり疲れてしまったようだ。
2人は「私らここで待ってるわ。○ちゃん上まで登ってお参りしてき。」と言って足を止めた。


大きく視界が開けて、眺めの良い場所だったと思う。

私は頷いて、1人で山頂を目指して歩き出した。
周囲に観光客はたくさんいたし不安はなかった。

日は傾いてあたりは徐々にオレンジ色になっていた。
その日はよく晴れていたと思う。

参道は登る人より下りていく人が多かった。

道の分岐、そして山頂へ。

山頂に近づくと道が2つに分かれていた。
道中眺めた地図を思い出す。
確か分岐はしていても辿り着く場所は同じで、左の道を進むと山頂を経由して、右の道から戻ってくるのだ。
逆も然り。
別れているが1本道と言える。

分岐点の正面には小さな祠のようなものがあった気がする。
そこには参道でも見たような手のひらサイズのお稲荷さんの置物が大量に並んでいた。

「ここはまだ頂上じゃないよ。ぐるっと回らないと。」

祠の前で手を合わせている親子がいた。
関西弁でそう話しているのが聞こえた。

私は確か左回りに進んだ。

参道は細くなって、道の両側に朱色の鳥居はなくなった。
代わりに小ぶりの石造りの鳥居が傾いて乱立していた。
それらは苔むしていて、はるか昔からそこにあるのがうかがえる。

やがて山頂についた。

想像していた大きな社などはなく、先ほど見たような小さな祠が立っていた。

周囲の様子はよく覚えていない。
ただ、灰色の石でできた、こまごまとしたものを大量に見た。
鳥居だったか狐の置物だったか、それともどちらでもなかったのか記憶が定かではない。

軽く手を合わせて私はすぐにそこを後にした。

山頂でお参りを終えて目的を達した私は、急に心細くなって参道を下った。
左回りに半円を描く道を走って下りた。

思い出す参道の風景には沢山の観光客をいた。
のんびりとした速度で散策する観光客は、それぞれがすれ違う人々の間を縫うように右に左に揺れながら歩く。
私もその波に揺れつつ息を少し切らしながら山頂を目指していた。

地面をたたく足の感覚を覚えている。
傾斜のきつい道も手伝って、かなりの速度で私は参道を下っていた。
それこそ全力疾走に近い勢いだった。

人にぶつかりそうになった記憶はない。
左右の景色が、朱いインクを擦ったように伸びて流れていった。

見知らぬ道に出る。

体力がない割に長く走り続けていたと思う。
やがて私は見覚えのない道を走っていることに気付いて速度を落とした。


坂道をあれだけ下ってきたので、道を間違えていたらかなりの距離を登って戻らねばならない。
分かれ道はなかったはずだった。

道中見た参道の地図がここにもあれば現在地が分かると思い、私はそのまま進んだ。

上手くすれば元の参道に戻る道があるのではないかと期待していた。

やがて、道は平坦になった。

あれほどあった鳥居はもう1つもない。
道も広くなって、いつのまにか地面は舗装されておらず、乾いた土の上を歩いていた。


道の両側には古い民家のような平屋が点々と建っていて、人が住んでいる気配がした。
人の姿はない。

ここまできて私は急に心臓がバクバクと早く鳴り出すのを感じた。
息も切れているがそれだけが原因ではなかった。
どこか違うところに迷い込んでしまったのだろうか。
そう疑ってしまうほどに伏見稲荷神社の空気は神秘的だった。
ここがまだ神社なのかは定かではないが。

私は非日常的な出来事に強く憧れる質だったが、それはあくまでも「非」日常的であるから面白半分に興味津々だったのだ。
また、そういった出来事は、どんな物語や体験談でも「思いがけない出来事」である場合がほとんどだから、興味津々かつ、そんな出来事に遭遇しやしないかと日々期待して待っている私なぞには縁がないだろう、と確信を持って生きていた。

走り続けるのに疲れていつもの速度で歩いた。
心臓は鳴りやまないが乱れた息が整ったころ、前方右側に大きな像が見えてきた。

巨大な像

それは金色の大きな観音像だった。

私は観音様だとか、仏像には詳しくないので、それが本当に観音像と呼んでいいのかは分からない。
茨木県の牛久大仏に姿はよく似ていたように思う。

さすがにあそこまで大きくはなかったが、見上げた首の角度を考えると6~7メートルほどの高さがあった。

金色の表面は夕日を反射して光っていた。
像の前の花瓶には色とりどりの菊の花が束になって挿してあった。

像のそばにはおばさんが1人いて、短い箒で腰を曲げて地面を掃いていた。
少しくたびれた服を着ていて、近所に住む人なんだろうと思った。

私に気付いておばさんは顔をあげた。

「あの、神社の道を下ってきたんですけど迷ってしまって、どうやって戻ったらいいでしょか。」

私が訪ねるとおばさんはやけにゆっくりとした口調で答えた。

「あー、道を間違えたんね。」

「ずーっと来た道戻りんさい。下りは1本道じゃないんよ。」

ひどく単純で真っ当な答えに私は少しがっかりして、歩いてきた道を引き返すことにした。
おばさんにお礼を言って歩き出す。

帰路 参道の合流

平坦な道は徐々に上り坂になって、2つに分かれた道に出た。
思ったほど時間はかからなかった。

夕日はまだ沈んでいなかった。

なるほど、私が今登ってきた道はまっすぐ山頂への道とつながっていて、もう1本、おそらくこちらが元々登ってきた参道だ。
これがその直線の道に合流するように交わっていた。
確かに行きは道なりに進めば山頂へ続いているが、帰りは気を付けないとまっすぐ続く異なる道に入ってしまうというわけだ。

私は元の参道へ戻って道を下った。

やがて祖父母と別れた場所が見えてくる。

私の姿を見つけた祖母は、「えらく時間がかかったから心配した」と言った。
当時は携帯電話も持っていなかったから、待っていてくれてよかったと思った。

そして私はその後、特に何もなく祖父母と家に帰った。

思い出話は以上だ。

私が不思議で少し怖かったというだけで、伏見稲荷神社で道に迷っただけの話だ。

道中見たものは少しの異様さを感じたが、伏見稲荷神社はそういう場所である、と言われたら納得のできる程度のものである。
記憶も今や曖昧だ。

情報を得れば得るほどおそらく記憶が虚ろってしまうので、あえて伏見稲荷神社についてネットで調べることなく文章を書いた。
所々実際の神社と異なる部分があるのは許してほしい。

もしかしたら、所々ではないかもしれない。
まるっとまるごと違うかもしれない。

この旅行以来、私はまだ京都に足を踏み入れていない。
近いうちにぜひまた遊びに行きたいと思っている。
私は京都が相変わらず好きなのだ。

ただ、伏見稲荷神社に1人で登るのはもう勘弁である。

コメント

  1. きつね より:

    伏見稲荷で金色の観音像というとかなりの出口に近い所にあります。
    もう少し歩けば稲荷駅に着く位置になるので、
    おばさんとの意思疎通がうまくいかなかったのでしょうか。

    『伏見稲荷 聖母観音』で画像検索すると出てきます。
    google mapだと下記の位置です。
    〒612-0805 京都府京都市伏見区深草開土口町7丁目

    • はちりはちり より:

      コメントありがとうございます。
      実は初めてコメントをいただいたのでとても嬉しいです。
      画像検索してみましたが、それらしき観音様を確認することができました。
      丁寧な情報提供ありがとうございました。
      また、行きたい気持ちがむくむく再燃しています。

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