サロン・ド・テ ロザージュ
さて、山のホテルを出ると、そのまま道を挟んだところにある四角い建物に入ります。
芦ノ湖に面したそこは、山のホテル別館のデザート専門レストランです。
その名もサロン・ド・テ ロザージュ。舌噛みそう~。
意味を調べてみると(一語ずつGoogle検索しただけ)、おそらく「紅茶のお店 シャクナゲ」って感じなのかしら。センス皆無の直訳で申し訳ないですが。
山のホテルといえば、広大な庭園が有名です。
私も写真でしか見たことないのですが、ツツジの季節のお庭の様子は異世界ファンタジーに登場するお屋敷のような景色です。大変きれい。
そのツツジと時を同じくして咲くのがシャクナゲの花なのです。
サロン・ド・テ ロザージュは、そんな華やかな名前を冠するにふさわしいところでした。
お店の名前にもあるように、こちらは紅茶が自慢のレストランです。日本紅茶協会からも「おいしい紅茶の店」として認められているそう。
ちなみに公式ホームページからメニューは一覧で見ることができます。スイーツの造形美だけでなく紅茶の種類の多さにも驚かされるはずです。
華やかかつデリシャスな世界をご覧あれですよ~。
テラス席の魅力
店内は大きな窓から差し込む日差しで明るく、開放的です。幸運なことにテラス席が空いていたので、天気も良いことですしそちらに座ることに決めました。
席に座ると眼前には芦ノ湖が広がっています。
私が到着したのがおよそ3時ごろ。あたたかい色の西日が湖面に反射してキラキラと輝いていました。
船が一艘、黒い影のように浮かんでいて、ゆっくりと流されています。
辺りは静かで、水が岸辺に打ち寄せる音しか聞こえません。
テラス席には3組の先客がいました。どの人も皆、椅子に深く腰かけてくつろいだ様子です。
大きな声を出す人はおらず、汚れた言葉を発する人もいません。湖面を眺めながら、相手にだけ聞こえるように言葉を発しているようでした。
私は例のごとく限定スイーツをオーダーしました。待っている間、なんとなく本を開く気にもなれず、ぼんやりと湖面を眺めていました。
3時のテラス席は柔らかい陽だまりに包まれていますが、少し冷たい風も吹いていています。空の高いところには雲がかかっていて、肌で秋を感じました。
日々の生活のなかでまったく何もせずに静止している時間とは意外にも短いものです。こういった時間の中でこそ、季節とかうつろいゆく物事について思いをはせることができるのだなぁと、つらつらと考えていました。
しかし、学生時代から変わらず日の光というものは睡魔を伴ってくるもので、次第に頭は霞がかかったようにぼんやりとし、まぶたも下がりがちになってきます。そんな視界に映る湖面もまた一段と輝いている気がして、しばしそのまま、まどろみに身を任せたいと思うのでした。
そうこうしているあいだに、オーダーしていた紅茶が届けられます。
紅茶はツツジの香りがするというフレーバーティーです。
目の前でカップに紅茶が注がれます。ふわりと花の香りが湯気と一緒に立ち上ぼりました。
その香りは眠い頭を刺激することなく、優しい驚きをもたらすのでした。カップを口に近付けるとより一層香りは濃くなって、じんわり体に染みるような気がします。最初の一口は目をつぶって味わいたくなる、そんな紅茶でした。
紅茶をひとしきり味わった頃にスイーツが運ばれてきます。
秋の味覚がふんだんに使われた贅沢な一皿です。1枚の皿の上なのに、どこから手をつけようか迷ってしまいます。食材も食感も多用ですが、そのすべてがほんのりとした柔らかい甘さで構成されていました。
紅茶はたっぷりとポットに用意されていたため、スイーツを食べ終わった後もなくなることはありません。
読みかけの本を読みつつもうしばらく紅茶を楽しみます。
時折湖を船が横切り、右手に見える浮き桟橋をギィギィと鳴らしました。
やがて紅茶が尽きる頃、ちょうど本を読み終えます。
荷物を持って立ち上がった瞬間、妙に意識がはっきりして、「あぁこれから私は家に帰るのだな」と感じました。太陽は傾いて1日の終わりが近いことを知らせています。
サロン・ド・テ ロザージュのテラス席には、外とは違う時間が流れているようでした。
フォークで口に運んだスイーツも、ただのスイーツではありません。甘さと一緒に、上質な時間を体に取り込んでいるような満足感を与えてくれます。
ここに来ることができて本当に幸運だったと噛み締めるような、そんなレストランとの出会いでした。
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