私がその小説を初めて読んだのは中学生の頃でした。再び手に取ろうと思ったのは書店で「アニメ化」の文字とともに平積みされていたためです。加えて、初めて読んだ頃には馴染みのなかった箱根駅伝というテーマも、箱根に越してきたために親しみ深く感じられるのでした。
読後の感想は「とにかく熱い」です。
本書は、陸上に関してほぼ素人同然の竹青荘の住人と天才的なランナー蔵原走、怪我のために1度は陸上を諦めかけた清瀬灰二ら10人が箱根駅伝を目指す話です。
物語の終盤には箱根駅伝当日の様子が彼ら1人1人の心情とともに描写されます。
その描写の涙が出そうになるほどのひたむきな熱ときたら、こちらの胸まで苦しくなってくるのでした。
性格も悩みもそれぞれの経歴も違う10人は、襷をつなぐという目的のためだけに箱根の山を駆け抜けます。1区、2区、3区と襷がつながっていけばいくほど、読み手もページを繰る手を止めることができなくなっていき、文字を追う速度も加速していきました。まるで選手の走る速度に引きずられるように物語に没頭する集中力が高まってゆく心地にさせられます。
頭の中を文章が駆け抜けていく速度がそのまま、彼らが感じている速度のように錯覚してしまいます。そしてついに目で追う文字の意味がとらえられないほどに読む速度が上がってしまい、ハッと我にかえるのでした。
終盤に文章の疾走感に感銘を受けずにはいられない小説です。
また、箱根の地理について多少知識を得た今読むからこそ、その描写の臨場感が高まります。小田原、箱根湯本、風祭のかまぼこ工場、富士屋ホテル、宮ノ下、小涌園、そして芦ノ湖。地名を聞くだけで道の険しさや周りの景色を一緒に体感できました。
私はただ文章をなぞっているだけにも関わらず、心拍数が上がってくるのでした。
私の中のベストセラーにくい込む、印象深い1冊です。
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