【箱根仙石原】ラリック美術館とオリエント急行

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箱根周遊
箱根周遊

こんにちは。

去る雨模様のある日、私は箱根施設巡りバスに乗っていました。
車窓から見える山は大分色付いて来ており、紅葉の見頃が近いと言えましょう。雨が降っているというのに車内は賑やかです。

大きなスーツケースを支えた外国人観光客は地図と次の停留所の名前を照らし合わせています。
やがて1人降り、2人降り、わさっとみんな降りました。

車内は一組の老夫婦と私だけになりました。

ゆっくりとバスは速度を落として私の目的の駅に到着します。

ラリック美術館着

バスを降りるとそこはラリック美術館です。
ラリックとはフランスの宝飾、ガラス工芸作家、「ルネ・ラリック」のことです。

ここを訪れるのは2回目です。
前回訪れた時もしとしと雨が降っていました。
以前は雨を煩わしく思っていましたが、こうも雨が続くと何かの縁を感じます。次に訪れるときも雨であれば良いと考えてしまいますね。

美術館の入口は敷地の奥に位置します。
すぐに展示を見に行きたいところではありますが、まずはやることがあるのです。

LE TRAINの乗車予約

入口のすぐ左手側には「LYS」というレストランがあります。
LYS(リス)とはフランス語でユリの花を意味するそう。
ラリックの作品ではユリの花のモチーフが頻繁に使われています。

しかし、本日の目当てはこちらのレストランではありません。
このレストランのレジカウンターに用があるのです。

カウンターの横にはパネルが置いてあります。
そこには「LE TRAIN」の文字が。

「ル・トラン」と読みます。フランス語で「列車」という意味。

そう、列車。しかもただの列車ではありません。

実際に走っていたオリエント急行が展示されているのです。

これに乗るべく今日は勇んでやってきたのです!乗るぜ!乗ってやるぜ!

早速レストランのカウンターで予約を済ませます。
2時からの見学に幸い空きがありました。後20分ほどですね。

なぜこれだけ気合が入っているのかといいますと、それはこの乗車券を獲得するにはそれなりのお値段が必要なわけでして。

はい。そうです。
ル・トラン見学料2,100円です。

これに加えて美術館の見学料が1,200円(ネットのクーポン使用価格。定価は1,500円です。)

合計3,300円と相成ります。ひええ~。

といってもル・トラン見学料の中には車内でいただくお茶とお菓子の料金も含まれています。
ちょっとお高いとは思いますが、その分楽しませていただくことにしましょう。いつもより化粧も丁寧にしてきましたし、雨なのにフレアのスカートだって履いてきました。
優雅な気分になる準備は万端でございます。

係の方はお金と引き換えに乗車チケットを渡してくれます。
雰囲気あってよいですね。

乗車まで少し時間があります。向かいの雑貨屋さんを覗いてみることにします。

SHOP PASSAGE

PASSAGEはセンスの良い雑貨屋さんです。
入口に箱根の観光地のパンフレットを並べたラックがあったので、とりあえず地図やら割引券やらを物色しました。
こういうものから行きたい場所や食べたい場所が見つかるものです。
抜かりなくチェック。

中はけっこう広く輸入雑貨やお菓子、美術館のグッズなど品ぞろえは多岐に渡ります。
特に何かを買うつもりはなかったのですが、レジの横にあるものを見つけてしましました。

ウォーカーのショートブレッドです。

名前だけ聞いても分からない方が多いかと思いますが、パッケージを見たら皆様ご存じはず。

赤いチェックの小さな袋に入ったクッキーです。
いくつか種類はありますが、私はフィンガータイプが大好き。カロリーメイトみたいな形のやつです。
検索してみて初めて知ったのですが、スコットランド生まれのお菓子のようですね。
うっかり買ってしまいました。

そして、お店の一画を見て私はショックを受けました。
なぜなら、そこの棚がクリスマスモード一色だったからです。
いつの間にそんなに月日が過ぎたん?

記憶にございません。

ル・トランの乗車時刻が迫る

さて、お店で油を売っている間に2時が近づいてきました。
先ほどのレストランの受付に戻りましょう。

受付の右側にはレストランが、左側にはル・トラン乗車客のための待合室があります。
待合室と言っても長方形の小部屋の両側に椅子が並んでいることから、なんとなく私がそう呼ぼうと思っただけです。
待合室の向こうにはオリエント急行の車両が見えていて、この距離感もまた待合室っぽいのでした。

時間になると車掌に扮したスタッフさんが入口を開けてくれます。
その際、乗車券にカチッと鋏をいれてくれたことにときめきました。わ~い。

展示室の中はおそらく駅舎をイメージして作られたのでしょう。

車両は広い建物の中心に展示されているのではなく、端に寄せて置かれています。その様子がまるで駅のホームに停まっているようでした。
高い天井や三角屋根も外国の映画で目にする駅舎のようです。

すぐに列車に乗り込みたい衝動を抑えて、スタッフさんの指示に従いテレビの前へ。
入口からすぐのところに、この車両がどのように箱根まで来たのかを学べるブースが用意されています。

DVDが再生されます。

オリエント急行について。車両について。その他諸々を映像で見ると印象に残りますね。

って書こうとしたんですけど、今内容思い出そうとしても全然思い出せない。
どうして私はDVDとか自分で考えなくても情報が入ってくる媒体に弱いのでしょうか。
たった5分ほどなのに眠くなりました。ごめんなさい。

しかし、大きな車両が船から降ろされ、車でこの仙石原まで運ばれる様子だけはよく覚えています。
今私がいる展示室の場所に車両が据えられてから、その後に壁と屋根が作られ、車両を建物で覆ったのです。
スケールの大きな話です。

車の荷台に載せられて山道を進むオリエント急行は、その時何を思ったのでしょうか。

オリエント急行ついてざっくりと

世界中の旅人を魅了し、小説の舞台ともなったオリエント急行。その贅を尽くした豪華サロン・カーで、専属スタッフの解説をお聞きいただきながら、優雅なティータイムをお過ごしください。(箱根ラリック美術館案内図より引用)

この説明文を読んで、ふと気づいたんですが私オリエント急行についてよく知らないんですよね。

だから世界中の旅人をどう魅了したのかいまいちピンときません。少し調べてみましょう。

オリエント急行とは、ヨーロッパを走る長距離夜行列車のことです。
オリエントというのは東方という意味。ここでの東方は東ヨーロッパを指します。

1883年、西ヨーロッパからイスタンブールを結ぶ国際寝台社会社の列車を「オリエント急行」と呼ぶようになったそうです。
ヨーロッパを西から東に横切るように走る路線ですね。

ラリック美術館に展示されている車両は、はじめ1929年に開通した「コート・ダジュール準急」の1車両としてパリとフランス南部の間を走っていました。

この路線を走る列車は「青列車」(ル・トラン・ブルー)と呼ばれ、特に豪華な列車として名をはせていたようです。
当然、行先は「東方」ではないため、この頃は「オリエント急行」ではありません。

この車両が「オリエント急行」と名乗るようになったのは、1976年にNIOE(ノスタルジィ・イスタンブール・オリエント・エクスプレス)の運行が再開された後になります。

車両はNIOEの路線を走る1車両として、2001年まで運行し続けました。

その後、2004年にラリック美術館にやってきたのです。

参照記事はこちら。おなじみのWikipediaです。
ル・トランの車両についてはこちら

また、オリエント急行が舞台の小説といえば、アガサクリスティ著「オリエント急行の殺人」です。
読んだことないにも関わらず、名前は知っているほどの有名作ですね。

オリエント急行に乗車

さて、いよいよ乗車します。
気品ある深い青色の車体からは時を経ても高級感がにじみだしています。

足を踏み入れて真っ先に感じたのは木の香りです。

おばあちゃんの家で嗅ぐ木の匂いとは異なります。
もっと上品で、丁寧に油を塗りこんだような古さを感じさせない木の香りです。

スタッフさんに連れられ、車両の前方の客席へ移動します。ふかふかとした絨毯の踏み心地が気持ち良いです。

乗車客のひとりひとりに席が割り当てられます。私は車両のちょうど角の2人掛けの席でした。

ソファは座面も背もたれも大きく、高さも低めのため安定感があります。
背もたれは緩やかに弧を描いていて、座るとすっぽりと受け止められているような心地がします。
これほど「身を預ける」ことに特化した椅子はなかなかないのではないでしょうか。
また、椅子がギュッギュッという音をたててきしむのは、中が綿ではなく藁を詰めてあるためです。夏は涼しく、冬は暖かいそう。

このソファであれば、列車に揺られながら眠るのも旅の良い思い出になるのでしょう。

テーブルには白いテーブルクロスがひかれ、その上に紅茶のポット、ティーカップ、それから紅茶のシフォンケーキが並んでいます。
食器にもオリエント急行のロゴが入っており、実際に使われていた食器であることが伺えます。
家具や絨毯も現役時代から変わっていないそうです。

早速オリエント急行でティータイムと洒落こもうではありませんか。

シフォンケーキはふんわりとしているにも関わらず、すっくとお皿に立っています。フォークで切って食べると紅茶の香りが広がります。
甘さ控えめですが、その分しっかり紅茶の味がします。
そしてシフォンケーキと言えば生クリームです。もちろんついています。
クリームだけ食べてみるとこちらも甘さ控えめです。
明らかに乳脂肪分高めのこっくりとしたクリームですが、口当たりが軽く食べやすいです。

シンプルですが、砂糖の甘さに頼らない上品なケーキでした。
紅茶も美味しかったです。

オリエント急行の窓は大きく横に長いため、まるで映画のスクリーンのように感じます。

今は車窓から見えるのは白い展示室の壁ですが、現役当時はまさに映画のように景色が移り変わってゆく様を楽しむことができたのでしょう。
ヨーロッパの景色は馴染みがなくてなかなか想像するのは難しいです。
とりあえず、車両の揺れだけでも思い浮かべてオリエント急行に乗っている臨場感を味わう努力をします。
まあ、馴染みある揺れと言ったら小田急線の揺れなんですけどね。

ケーキを食べ終えたあと、少し席を立って車内を見学してみます。

ルネ・ラリックが手掛けたガラスの細工は車両の至るところに飾られており、車内を華やかに見せています。

特に窓と窓の間にあるガラス細工は目を引きます。
3枚の縦に長いガラスにはそれぞれ柔らかい曲線で人物が彫り込まれています。磨りガラスのような色味が高級感ある印象。

このガラス細工は鏡面加工という裏側に銀を貼る加工が施されて、太陽光が入ると車内を明るく広く見せる効果があります。

上下には蒲萄のモチーフの細工が飾られています。

この車両の中だけでもパネルは156枚あります。
なるほどこの数字だけ見ても、いかにオリエント急行が高級列車であったのかをうかがい知ることができます。

また、ケーキを食べた隣の車両には映画でよく見る個室がありました。

「ハリーポッター」のホグワーツへ向かう列車、「グランドブダペストホテル」のルッツへの旅路などで見かける個室です。
まさに映画のセットのようです。わくわく。

ひとしきり中を散策して席へ戻ると、ちょうど先程のスタッフさんが姿を現しました。
ここからはラリックの作品や車両についての説明があるそうです。

スタッフさんの電車の車掌さんのような語り口に耳を傾けながら、車内の調度品を観察します。

テーブルは付属のベルトを用いて壁に沿って収納できる仕組みです。
調度品を全て片付け、車内でダンスパーティも開かれたそう。
ゴージャスですね。

その他にも風が顔に当たらない二重窓やラリックが手掛けたランプシェードの逸話についてなどの説明がありました。

フランス語で「身をのりださないでください」との注意書き。

どれも実物を目の前にして話を聞けるため大変楽しかったです。

そして下車の時間がやって来ます。

見学は40分と決められているため、名残惜しいですが降りねばなりません。

たった数十分の乗車だけでも降りるのが惜しい気持ちにさせられます。
きっと実際のオリエント急行の旅はもっと思い出深く、貴重な体験として記憶に残るのでしょう。

すっかり優雅な空気に浸ったところでル・トラン見学は終了したのでありました。

ルネ・ラリックの世界に浸る

さて、では美術館の展示を見に参りましょう。

美術館に続く通路の落葉樹が紅葉の見頃を迎えていました。

周りが芝生だとなんだか外国の庭園のような風情です。秋ですね。

美術館の中は写真撮影は禁止です。
目の神経を研ぎ澄ませて鑑賞しましょう。

ルネ・ラリックさんの作品は家具、調度品、小さな香水瓶から花器まで多岐に渡ります。
ジュエリーはその美しさと精巧さから「見に纏う彫刻」と、呼ばれたそう。

その呼び名も、見ればなるほどと納得してしまいます。
モチーフは昆虫や鳥や花など自然物が多いのですが、それらはまるで生きているかのように形作られています。

黄金虫やトンボ、セミなどはリアルに緻密に作られているにも関わらず、まじまじと目線を合わせたくなるような生命力を感じます。

ラリックの作品はパッと見ただけでは幾何学模様のように見えますが、近づいてみると重なりあった植物だったり女性の姿だったりと写実的なモチーフの組み合わせが多く見られます。

そしてそのモチーフの名前がそのまま作品名になっているものが多いのです。

そのため、まずは作品を観察してモチーフの見当がついたら作品名を見て答え合わせをするといった楽しみ方ができます。
クイズのようで楽しいです。ぜひお試しあれ。

展示室は1階と2階に別れており、作品の数も多いので見ごたえがあります。

1階の香水瓶やジュエリーなどのきらびやかな展示は見ているだけで華やいだ気持ちになります。

今でいう新しい服やコスメを眺めているのと同じ気持ちです。
女性をターゲットにして製作された品々は、今でもその魅力を失っていません。現代の女性もときめく展示です。

香水瓶はいくつものデザインが展示されているため、自分好みのものを見つけてみると楽しいですね。

ちなみに私は、湖にうつった月をモチーフにした「ダン・ラ・ニュイ」がお気に入り。
にぶい青色の丸いフォルムがかわいいです。
名前の由来は「夜のしじま」だそう。

蝶の女

数ある作品の中でも印象に残ったものを1つ、紹介したいと思います。

展示の順路を進んだ終盤にある、「蝶の女」です。

こちらはブロンズでできた作品で、羽のある女性の彫刻です。
初めて見たとき、思わず足を止めて見惚れてしまいました。

とにかく私はこの彫刻の「美しい形」に感激しました。

暗い展示室のショーケースの中で女性は斜め上を見上げています。
大きく広がった羽は、女性を上へ上へと押し上げるように下に伸びています。

その顔に証明があたり、輝いてみえるのです。
ブロンズはにぶい銅色で、ジュエリーなどに見られる華やかさは全くありません。

しかし「蝶の女」からは、その女性が見ている先に明るくまぶしい何かがあることを感じることができます。

ショーケースの中で彼女は明るいものを目指し続けているように見えるのでした。

女性の顔は私の頭よりも上の位置にあります。

そのため、必然的に彼女を仰ぎ見る姿勢で鑑賞するのですが、その角度が一層彼女を特別な存在であるかのように感じさせます。

「明るい何かを仰ぎ見る彼女を仰ぎ見る私」という状況は、まるで私もその明るい何かを手にすることができるような気がして、ただ幸せな気持ちで眺めていられます。

しばらくの間、私はポカンと口を開けた間抜けな顔でその作品に見入っていたのでした。

まとめ

さて、長い記事になりましたが、このあたりで終わりたいと思います。

ラリック美術館の展示は、精巧さや美術品としての価値の高さなども魅力の1つだと感じますが、何より見ていて幸せな気持ちになります。

かわいいものは正義。いつの時代も女性は美しいものを身につけて活躍し、その美しいものを求める気持ちがラリックのような優れた芸術家を産み出してきたのだと実感できます。

装飾品なんて娯楽です。
あってもなくても死にはしないし大して困ることなんかありません。

しかし、あれば楽しい。
楽しければ気持ちが華やぎます。
その華やぎが人々を元気にし、文化を産むのだと思います。

ルネ・ラリックはそんな娯楽の道を極め、彼の作品に関わる多くの人の人生を彩り豊かにしたと言えましょう。

死んだあともなおそれらの作品は生き続け、我々の心に花を添えてくれます。

皆様もぜひラリック美術館で時代を経てなお生き続ける美しさを体感してみてはいかがでしょうか。

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